癒着に関する記事の続きです。
【前回までの記事はこちら】
先日、脛骨の螺旋(らせん)骨折を受傷後、手術して10年が経過された方にお越しいただきました。
今回お越しいただいた際の、一番の悩みとしては、
・歩いているときにつま先に体重が載ったタイミングで膝が内側へ入ってしまう
・つま先に体重が載ると親指が地面に押し付けられる
・足の親指だけ自由に動かない
・ウォーキングをしていると腰が痛くなる 等
でした。
実際に足を見ながら考えてみよう!
(写真の足は私のものです。実際の傷に近いものを描き足しました。)
傷の部分を見ているとこの術創部での癒着が気になりがちですが、この方の場合、脛骨の前面の皮膚・筋・骨との癒着は認めるもののそれほど強固な癒着は形成されておりませんでした。
この足の前面の傷の癒着によって生じる主な症状としては、
・足首がまっすぐにならない
・正座ができない
・つま先を上げる力がうまく入らない
・足の指が曲げにくい 等
になります。
このような動きの制限は出現してはいるのですが、先ほど挙げた一番の悩みとなる動きにくさ(背屈方向)とは逆方向(底屈方向)です。今回のメインとなる症状ではありませんね。
目に見える術創部以外の癒着は?
ではこれらの動きを制限し、様々な症状を引き起こす原因となっている部分はどこなのでしょうか?
この記事では癒着に関連することを記載していますので、この癒着に関する部分についてのみ考察していきます。
(※癒着以外の問題もありますが、今回は省いて考えます。)
先ほどの写真の傷の位置から、骨に「仮想の骨折線」(緑)を描いてみましょう。
(注意:実際の骨折線を確認したわけではありません。)
骨折した骨の裏側はどのようになっているのか?
では今度は、ふくらはぎの裏側、深層の筋の図に
先ほどの「仮想の骨折線」(緑)を描いてみましょう。
すると損傷されている可能性のある部分が見えてきます。
ちょうどこのライン上に位置する筋肉が今回骨折と同時に損傷されている筋肉ですね。
後脛骨筋、長趾屈筋、長母趾屈筋。
見ての通り、この3つの筋肉は全て同時に損傷されている可能性があります。
【前回の記事】では、最重要な筋として長母趾屈筋を挙げました。今回もこの筋肉がキーポイントです。
最初に出てきた、足にまつわる症状としては、
・歩いているときにつま先に体重が載ったタイミングで膝が内側へ入ってしまう
・つま先に体重が載ると親指が地面に押し付けられる
・足の親指だけ自由に動かない
でしたね。
これらは主に長母趾屈筋の癒着、そして筋肉の伸張性が低下していることによる影響と考えるのが妥当です。
どういうことか?
ここでもう一度、長母趾屈筋の位置関係を見ながらご説明しましょう。
長母趾屈筋の位置関係を詳細に見る。
長母趾屈筋は距骨の後方を通りますが、特に内側を通っています。このことから長母趾屈筋が硬くなると、足首の硬さでも特に内側の動きが硬くなるのです。すると足首は外側を中心に関節が動くようになります。
するとどうなるか?
つま先が外を向くように関節が動くようになるのです!
「つま先と膝の位置関係」と「歩き方」
ここでつま先と膝の位置関係を考えましょう。
つま先を外に向けると相対的に膝は内を向きます。歩く際に膝が内を向いてしまうということは、これと同じことが歩いている最中にも起こっているということです。
歩くと地面に押し付けられる親指
さらに、これと同じタイミングで親指が地面に押し付けられるという症状がありました。
本来、歩行の際につま先に体重が載ると、足趾の付け根の関節が曲がると同時に足首は自然と背屈方向に曲がります。
しかし、長母趾屈筋の硬さが強く残っている場合…
→長母趾屈筋が硬くて足首の背屈の動きの邪魔をする
→同時に、伸びる範囲で「親指の先まで繋がる長母趾屈筋」は引き延ばされている
→足首がこれ以上動かない中、親指が曲がる方向に引っ張られてしまう
→しかし、指先が地面に着いているので親指が曲がらない
→親指が曲がる代わりに、地面に押さえつけられる感覚が強まる
ということです。
これは「clow toe」に近い症状ですね。
ちなみに、足の親指がうまく動かないのは、長母趾屈筋がうまく働かせられないからです。
腰の痛みは?
腰の痛みについては、少し考察がややこしくなるのでここでは簡潔に示しますが、
足首の曲がりが硬くなる
→つま先に体重が載りやすくなる
→つま先で踏ん張る度に足首の動きを補って骨盤が前に傾き、腰が反る方向に力が加わる
→お尻と腰の筋肉に過剰に負担がかかる
→痛みが出現する
というようなメカニズムが働く結果かと思われます。
しっかりと時間をかけて着実に改善へ
改善へ身体を導いていこうと思うと、足首の硬さを解消させるだけでなく、歩き方も変えていかないといけません。
術後長い期間が経過しているので、身体の使い方も良くも悪くも現在の身体に状況に合うように適応してしまっています。すると固い部分はさらに硬くなり、筋肉の負担はより強くなるので、運動したり、日常生活以上の動きをする際に痛みが出現しやすくなるのです。
このような症状を改善させていこうと思うと、 どうしても時間がかかりますし、根気も要ります。しっかりと時間をかけて着実に改善へと導いていきたいところです。
次回は、
キズの癒着⑤:瘢痕化した組織では何が起こっているのか?
についてお伝えしていきます。
お楽しみに☆
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堤 和也