今回は、足関節(足首の関節)周辺の骨折によって失われやすい足首のバネを取り戻すための取り組みをご紹介していきます。
バネのある動きを作るために必要な機能
その名は、
SSC:Stretch Shortening Cycle
(ストレッチショートニングサイクル)
です。
と言われても大半の方が何のことかわかりませんよね。
筋肉と腱(筋腱複合体)が神経反射を利用しつつ、瞬間的に伸び縮みをして、瞬間的に爆発的な大きな力を生み出す神経筋機構のことです。
少し話が難しくなりますが、できるだけわかりやすくご説明しますので少しだけお付き合いください。
縄跳びで飛び跳ねるような動きを想像してみよう!
縄跳びを飛ぶように、小刻みに素早く連続して跳ぶと主にどこの筋肉を使うでしょうか?
逆に大きく、高く、遠くへジャンプしようとするときには、どこの筋肉を使うでしょうか?
一度想像してみてくださいね。
試しに跳んでみるとよくわかると思います。
どうでしたか?
縄跳びは、膝や股関節を大きく曲げずに、常につま先だけを着いたままの状態で跳びますよね。
(いや、「かかとを地面に着く!」という方は、残念ながらあまり縄跳びが得意でない可能性が高いです…。)
逆に大きく跳び上がろうとするときには、まず大きくしゃがみこんで、手も一緒に反動をつけてから全身で跳び上がりますよね。このときには縄跳びの場合とは逆に、かかとは地面に着きながら、膝と股関節を大きく曲げて跳び上がります。
この動きの違いが、筋肉の働きの大きな違いになってきます。
縄跳びのような跳躍で最も働く筋肉は?
縄跳びのように脚の関節を大きく曲げずに、小刻みに素早く跳ぶ場合には、ふくらはぎの筋肉を最も使います。
ふくらはぎの大きな膨らみを作っている筋肉は、「腓腹筋」「ヒラメ筋」と呼ばれ、この2つの筋肉はアキレス腱へつながっています。
(つま先の動きを安定させるために、ふくらはぎの深いところにある筋肉の働きも非常に重要ですが、ややこしくなるので今回は割愛します。またどこかでまとめます。)
高跳びのような跳躍で最も働く筋肉は?
動きを見てみてもわかりやすいように、膝と股関節周辺の筋肉を大きく使います。
太もも前の「大腿四頭筋」や太もも裏の「ハムストリングス」、お尻にある「臀筋」(たくさんあります。)などですね。
もちろん、これ以外にも体幹や腕を含めた全身の筋肉が大きく働きますが、今回は分かりやすく脚だけで考えていきます。
(参考)下肢3関節の構造および機能特性
足関節(足首)周辺の骨折ではどのようなジャンプが難しくなるのか?
では、足関節(足首)周辺の骨折で難しくなるジャンプは、先ほど挙げたどちらのジャンプでしょうか?
実際に骨折や怪我をされている方だとすぐにわかるかと思いますが、
縄跳びのような跳躍が難しくなるのです。
(必ず医師からの許可が出てから跳んでくださいね!)
両脚で同時に跳ぶと、良い方の脚でかばうので差がわかりにくいかもしれませんが、片脚で跳ぶと一目瞭然です。
多くの場合、かかとを着かずに跳ぶことができなくなってしまうのです。
これは、足関節(足首)周辺の骨折や怪我をすると誰でも感じる症状です。
あなただけに特別なものではありません。
「バネがない」とは、「SSCが機能していない」こと。
ここでようやくSSCの話に入ります。
ここで「反動」という言葉を用いますが、反動とは、
「目的とする方向への動きの直前に生じる、逆方向への関節の動き」
と理解しておいてくださいね。
例えば、「跳び上がる動き」とは上向きの動きを目的としていますが、
跳び上がる動きの反動とは、逆の下方向への「しゃがみ込む動き」のことです。
反動をつけた動きの際に、伸張反射を利用しつつ、筋肉が伸びながら収縮し(遠心性収縮:eccentric contraction)、この間に硬くて強い腱組織を大きく引き伸ばします。
このとき大きく引き伸ばされた腱組織には弾性エネルギーが蓄積されます。
ちょうど輪ゴムを強く引っ張ったような状態ですね。
強く引っ張った輪ゴムを離すと、瞬間的に縮みますよね。
これと同じことが腱組織でも起こるのです。
この蓄積されたエネルギーを瞬間的に開放し、爆発的なエネルギーを生み出します。
この一連の神経筋機構が、
SSC:Stretch Shortening Cycle
(ストレッチショートニングサイクル)
と呼ばれるものです。
縄跳びに欠かせないアキレス腱のSSC
ここまで縄跳びについて書いてきましたが、
「縄跳び」という表現についても、もう少し細かく定義しておきましょう。
ここで「縄跳び」と表現している跳躍とは、
「連続して行う、反復した素早い跳躍」
のことです。
では、この「連続して行う、反復した素早い跳躍」の際にどのようにアキレス腱のSSCが機能するのか見ていきましょう!
反動動作における筋の生理学的変化
①着地する直前には、予備的に下腿三頭筋が緊張し、
②つま先が地面に着くと同時に、下腿三頭筋の伸張反射が生じます。
③その後、下腿三頭筋は伸張されながらも収縮を続け(遠心性収縮:eccentric contraction)、腱組織を引き伸ばし、腱に弾性エネルギーを蓄積させます。
④そして蓄えられた弾性エネルギーを開放し、再び跳び上がります。このとき同時に筋も収縮し跳び上がる力を発揮します。(求心性収縮:concentric contraction)
このようなことが瞬時に行われているのです。
では実際に、アキレス腱のSSCが機能しにくくなった方の跳躍を見てみましょう!
まだまだ動きは完全ではありませんが、トレーニング実施後にはかかとを地面に着かずに跳躍することが可能となっていますね。
このとき(骨折後初回)は、着地時に痛みが生じていたのですが、
トレーニングを通じて、跳躍・着地に必要な要素をSSCを中心に獲得していくことで、
その後痛みは出現せず、2週間ほど経過後にはほぼ不具合を感じない程度まで跳躍・着地が行えるようになりました。
実際に実施したトレーニングは多岐に渡りますが、
このようなトレーニングを継続していくと、バネのある動きを取り戻していくことができるのです。
是非参考にしてみてくださいね。
P.S.
実はこのSSCという機能について、
病院勤務時代に、このような症例検討を学会発表、研究報告にまでつなげてみたいと思っていたのですが、実現できませんでした(泣)
でも今思えばそれで良かったのかもしれません。
研究しているよりも、実際に臨床で目の前で起こる変化を見られることの方がよっぽど楽しいから♪
カラダと姿勢・動きをデザインする。
カラダ Design Lab.
カラダデザインラボ
堤 和也
@滋賀県大津市石山